昔々。パソコン通信に代わり、インターネットが普及し始めた頃。現代のようにフリーソフトをダウンロード、なんてことは出来ず、CD-ROMやFD付き雑誌を購入し、そこからソフトをインストールしていた、そんな時代。 当時大学生だった私は、CD-ROMドライブ付きパソコンを買ったばかりの若造でした。新しいパソコンが物珍しく、フリーソフトが詰まった雑誌を購入し、面白そうなソフトを片っ端からインストールして楽しんでいました。その中に、妙に心打たれたソフトがあったのです。
十年砂時計。
このソフトは起動すると大きな砂時計が表示され、砂が少しずつ下へ落ちていきます。そして最初に起動してから(電源を落としたとしても)10年後に砂が全部下へ落ちる、というものです。十年砂時計の説明書には、このような文章が記載されています。
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十年砂時計は、最初に起動させた時から10年間うごきつづける砂時計です。たとえコンピュータのスイッチをきっても、砂はすこしづつ落ちていきますので、忘れた頃に、また
10NEN と打って下さい。いつのまにか、あなたの知らないあいだに新しい砂がたまっているのを見ることができます。 十年砂時計は、あなたの人生にとってなにか特別な日に開始することをすすめします。そうすれば、そのあと起動するたびに、時の流れをしみじみ思い、しばし感慨の涙をながすことでしょう。 (中略) 今日、起動を始めた十年砂時計が止まる日は、歴史はすでに21世紀にはいっています。21世紀、それはどんな時代なのでしょう。 21世紀のある日の夕方に、あなたの子供が、押し入れの奥でほこりをかぶったPC9821Ap2のスイッチを入れた時、AUTOEXEC.BAT に組み込まれた 10NEN.EXE が起動し、砂時計の砂がほとんど終わろうとしているのを発見するかもしれません。 |
「21世紀のある日の夕方に、あなたの子供が、押し入れの奥でほこりをかぶったPC9821Ap2のスイッチを入れた時、AUTOEXEC.BAT に組み込まれた 10NEN.EXE が起動し、砂時計の砂がほとんど終わろうとしているのを発見するかもしれません―――。」
このフレーズが妙に印象深かったのを覚えています。 おそらくソフトの作者自身、10年後に砂時計が止まるのを見る人など居ないと思っていたでしょう。事実、十年砂時計は「ジョークソフト」として分類されていました。私も最初の2〜3日は砂時計の減り具合を見て面白がっていましたが、やがて飽き、そして忘れていきました。そう、説明書通りに。 ◇ ◇ ◇ 先週のことです。パソコンのバックアップを取るべくMOドライブを接続し、重要なファイルをMOに落としていたところ、あるフォルダが目に留まりました。 「十年砂時計」 そう数年前、本人も知らぬ間に、MOにバックアップを取っていたのです。OSがWin95からXPへと変遷を遂げるなか、十年砂時計は誰の目にも触れることなくMOで眠っていました。
果たして砂はどれほど落ちたのか。 起動してみました。 |
砂は7年3ヶ月分、落ちていました。
何回かパソコンを買い替え、ホームページを立ち上げ、私は社会人になりました。嬉しいこともあれば悲しいこともあったけど、その間、十年砂時計はMOの中でずっと、一粒ずつ砂を落としていたのです。7年もの間、1秒ずつ時を刻み続けていたのです。 十年砂時計の説明書の最後には、このような記載があります。
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もうすぐ一児の父になる だいすけ |
作者のお子さんは、いま7歳でしょうか。砂が流れ続けている間、どのような時間を過ごし成長していったのでしょうか。そして、自分は。 あの頃に目指していたモノに自分がなれているのか、いや目指していたモノが何だったのか、それさえ忘れてしまったけど。でも7年前、「十年砂時計」のユーモアに感動した気持ちは忘れないようにしたい。そして十年砂時計のようなコンテンツを生み出したい。そう思い、砂時計をまたMOにしまいました。3年後、砂が尽きるまで、また戸棚の奥で一秒ずつ時を刻み続けるでしょう――。
ろじっくぱらだいす、4000万Hit突破。 これからも頑張ります。 |
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