ball03wls.gif (1536 バイト)演劇の君へball03wls.gif (1536 バイト)

トップページ 戯言 > 演劇の君へ





 大学時代、私は某サークルに入ってました。何のサークルかは触れませんが比較的大規模なサークルでした。一緒に入部した同期の中にいたのがD君。

 とにかくいい奴で、悪口を言えと強いられても思いつかないぐらい。しかしスジを通すところは通す、ちゃんと芯のある男でした。

 入部から1年経った大学2年の時、D君はサークルを辞めました。

 彼はサークルの他にも演劇をやっていて、そちらの方に専念したいとのことでした。誰も彼を止めることは出来ませんでした。なぜなら演劇の話をしている時のD君は、陳腐な言い方ですがとても輝いていたからです。

 大学3年のとき。D君の初舞台に招待されました。

 他にもアマチュアな演劇友人を集めて作った、3人の舞台。照明や音響、受付も全て友人に頼み込んで作りあげた舞台。本当に楽しかったです。ああいう世界もあることを思い知らされました。その夜、一緒に舞台を見たサークル仲間と飲んだお酒は本当に美味しくて。世界は違えど、かつての友人が頑張っている。そのことが純粋に嬉しくて、頼もしくて。

 本当に頑張って欲しかった。心から応援していた。

 大学4年の時。D君が留年したことを知りました。

 学歴社会という視点から見たら、彼は落ちこぼれになるでしょう。しかし、我々の中で彼を蔑む者は一人も居ませんでした。彼が演劇に熱中するあまり留年したことを知っていたから。留年してまで熱中するものがあるということ。それはとても幸せなことだと思った。

 

 そして、今日。風の噂を聞いた。彼は卒業後に東京へ行き、本格的に演劇に打ち込んでいるという。いつか有名になって、演劇で飯を食べられるようになって、若い頃の苦労話を笑顔で語れるようになるのだろうか。その中に、たった一年だったが僕らと共に過ごしたサークル時代の思い出は入っているのだろうか。

 本当に嬉しかった。頑張って欲しいと思った。今でも心から応援している。

 そう思いながら、今日は特別にビールを買って、東京に向かって一人で飲んだ。

 

 

 

 

 ――大学3年生の時、D君の舞台を初めて見た日。その夜飲んだお酒の味がした。