まったく社会ってのは大変だ。お前もそう思うだろ?
ことの次第は、今朝だ。どこか遠くの駅で事故があり、それが首都圏全般に波及して、具体的には最寄り駅に電車が来なくなった。事故が起こったのは不幸だが、電車が来ないのもまた不幸だ。
電車が来ない = 出勤できない = 出勤しなくていい = 家で寝ててもいい。小学生でもわかる公理だ。だけどな、あらゆる不可能を可能にしてきたジャパニーズサラリーマンは、そういう道理に収まる器じゃなかった。具体的には、なんとしても出社しようとした。
俺は、昔はそうじゃなかった。風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みする、ハメハメハイズム溢れる人間だった。だけどな、年月ってのは人を変えちまうんだ。悲しいだろ?この俺ですら、出社しようとしちまったんだ。
そんな愛社精神に満ちたサラリーマンが溜まる駅のホームに、来ちまったんだな。愛社精神に満ちたサラリーマンに満ちた電車が。
そこから先は言わなくても分かるだろ?地獄だ。
乗車効率を最優先にした結果、隙間なくみっしりと人が詰め込まれた車両の完成だ。驚いたぜ。あれで消えなかったことを見ると、俺たちはテトリスのブロックではなかったらしい。
そんな電車に揺られ、ようやく職場の最寄り駅についたとき、思ったんだよ。俺はこれだけの苦労をして、いったい何を得ているんだろう、って。一体なにが欲しくて、こんな苦行に身をやつしているんだろう、って―――
答え:給料
要約:事故で出勤がすげぇ混んだけど、間に合いました