先日のことです。
街を歩いていたら、とある居酒屋に
「当店は8月31日で閉店いたします。長らくのご愛顧、誠にありがとうございます」
コロナ禍となり、お酒を飲む機会がめっきり減りました。
飲食店はかなりのダメージを負っているのでしょう。この居酒屋も、街ではけっこうな歴史のある店だったのですが、どうやら耐え切れず閉店となった模様です。
そんなことも忘れていた、本日。8月31日。
晩ごはんを何にしよう、と街をうろついていて、ふと、閉店のことを思い出しました。
「今日、閉店じゃないか。最後だし行ってみようかな」
お店に入ると、入り口に一番近い、レジ横のカウンターに通されました。
カウンターにはお花が並び、店内は常連っぽい客でぎっしりです。
最後の日、大賑わい。店主も忙しそうにしています。
店主はいったい、どういう気持ちでいま、生ビールをジョッキに注いでいるのでしょうか。
一人でビールを呑みながら肉をつまんでいると、会計をして出ていく客と店主の会話が聞こえてきます。
「本当にこの店が好きでした」
「これからどうするんですか?」
「次のお店は決まってるんですか?」
そう行って、店主と一緒に店の写真を撮って、みんな出ていきます。
いったい店主は、どういう気持ちでいるのだろう。
「そんなに好きだったら、もっと店に来てくれよ。そうすれば辞めなかったのに」
とは思わないのだろうか。
もしかしたら我々は、残酷なことを言っているのかもしれない。
それでも、何かを言わなければならない、そんな気になってしまうのです。
食事を終えて、会計をしようと店主を呼びます。
すると店主、
「美味しく召し上がっていただけましたか?」
ダメですね。
柄にもなく、言っちゃいました。
「僕がこの街に引っ越してきて、初めて来たのがこのお店だったんです。美味しかったです。いままで本当にお世話になりました。」
深々と頭を下げてくれる店主にお礼を言って、店を出ます。
家に帰る道すがら、ふと、思いましたね。
この街に来て初めて入ったお店、サイゼリアだった気がするな