ball03wls.gif (1536 バイト)10年後の「演劇の君へ」ball03wls.gif (1536 バイト)

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 「演劇の君へ」を書いたのが7年前。最後にD君と会ったのは、10年も前になります。今日の話は、「演劇の君へ」の続編です。

 ◇

 先日、結婚式のために帰省しました。礼服に身を包み、炎天下に炙られた額を拭いながら式場の待合室へ入ると、出席者に見覚えのある人が混じっています。

 

 D君でした。

 

 「Dか!?おおおおおお!久しぶりいいいいいい!」

 「ワタナベか、元気だったか!」

 

 ひとしきり再会を喜び合った後、いまどこで何をやってるのかをD君に訊ねようと思ったのです。思ったのですが、内心、ちょっとドキドキしてました。

 「役者として生きるのは無理って解ったから、いまサラリーマンしてるよ」

 なんて、さらりと言われたらどうしよう、と。生きるために、食べるために、20代の青臭いキモチなんてとっくに忘れてたらどうしよう、と。

 でも、それが現実なんだよな。学生の頃に見た夢の延長線上で生きていくには、この世界はあまりにも辛すぎるもんな。――自分の心に予防線を張りつつ、さりげなく訊いてみました。

 「で、Dは、いま何をやってるの?」

 

 

 「ああ俺?まだ役者やってるよ(笑」

 

 

 そのときの私の喜びを、気持ちの昂ぶりを、みなさん想像できますでしょうか。「バイトして食いつなぎながら、劇団やってるよ」とか「この間、あのCMにチョイ役で出たよ」と笑いながら語るD君のまぶしいこと。彼は初舞台から10年経った今でも、愚直に自分の夢を追い続けていたのです。

 きっと生活は楽ではないはずです。将来の保障など何一つないのでしょう。なのに。なのにD君は、なぜあんなに楽しそうに輝いていられるのだろう。それに比べて私は。私は。

 仕事って何だろう。人生って何だろう。心の隙間を満たすように乾杯用のシャンパンを流し込みながら、人生の伴侶を得た友人と、自らの夢に生きる友人に、祝福の拍手を。




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