ball03wls.gif (1536 バイト)「俺のピクニック」100km歩行記(9)ball03wls.gif (1536 バイト)

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16.第6チェックポイント:「千葉工業団地エリア」
    (20:30 スタートから12時間経過)

 

 いよいよ今回の旅の難所に挑戦です。

 千葉工業団地エリア。

 このエリアを越えてこそ、100km踏破の道が開けるのです――。

 

 最初は線路の内陸側を北上していたのですが、道沿いに人家はおろか街灯すらない。写真では明るく映ってますが、実際はものすごく暗いのです。

 ここも歩道と車道の境があいまいで、車とすれ違うたびに恐怖を感じます。踏切があったので線路を渡り、東京湾側の道路へ移動。いよいよ工業団地を歩きます!

 

 真っ暗。

 想像以上に真っ暗。

 

 上の写真は、左側に道路、右側に野原、中央に歩道が映っているのです。実際より明るく見えるはずのカメラですら、この暗さですよ。現実に歩いてる私からしたら、暗闇もいいところです。

 左手遠方に工場が並び、夜間にもかかわらず規則正しい金属音が響いてきます。工場と歩道の間にバイパスがあり、ヘッドライトを灯した車が猛スピードで駆け抜けます。右手には緑地帯が広がり、うっそうと茂った森が壁のように立ちはだかっていて。

 

 なんだこれ

 人の気配がまったくない

 

 もちろん工場には人が勤務してるでしょうし、車には人は乗っています。だけど、人間が居る、というリアリティが感じられない。まるで壁の向こう側にある別世界のように思えます。街灯も信号もないので、車が通らないと、何も見えないぐらいの暗闇。もちろん人家もコンビニも一切ありません。ある程度予想はしていたものの、ここまで酷いとは……。

 

 っていうか、俺、こんな場所を20km以上歩くのか……?

 

 急に寒さが増した気がして、思わず身体をすくめます。これは冗談抜きでマズイ環境だぞ……。自販機もコンビニもない状態で、どうやって水分を補給するんだ?そもそも、明かりも何もないのに、どこで休憩するんだ?真っ暗な原っぱで寝転がるのか?いや、もしここでハンガーノックに陥ったら……。

 動けずに暗闇でうずくまる自分を想像し、慌ててチョコを口の中に押し込めます。もうチョコの味なんてしません。

 寒い。

 寒い。

 寒い。

 寒い。

 ここで変な連中に絡まれたら、逃げることも助けを求めることもできない。万歩計には防犯ブザーが付いているけど、ここで鳴らしても誰一人聞こえない。タクシーを呼ぶにも現在地が分からない。そもそも携帯がつながるかどうかすら怪しい。もしここで車に轢かれても、2〜3日は誰にも気付かれずに放置されそう……。

 あまりの絶望感に、いっそ、右手の原っぱで一夜を明かすか……などと考えます。しかし、寒さと恐怖に耐えながら朝まで寝ていたとしても、周りが明るくなるだけで事態は一向に改善しないのです。

 GPSを見ると、次のチェックポイントまで「あと21.5km」の文字が。必死に歩いて、歩いて、歩いて、歩いて、再びGPSを見ると

 「あと21.4km」

 100mしか歩いてない。次のポイントまで、これを214回繰り返すのか……?しかも、チェックポイントに到達したとして、そこから自宅まで、さらに40kmも残っている……。

 前を見ても暗闇。後ろを振り返っても暗闇。

 リタイアはできない。休憩もできない。

 いまの自分には、前へと歩くことしかできない。

 前へ。

 前へ。

 前へ。

 街灯がないと、休憩する場所がない。真っ暗な道で座り込んだら、なんかちょっと精神的におかしくなりそう。ひたすら歩くしかない。GPSを見る。まだ100mも歩いてない。

 寒い。

 寒い。

 寒い。

 寒い。

 

 本当に挫けそうになった頃、ライトで照らされたガソリンスタンドの看板が見えてきました。やった……あそこまで歩けば、トイレもあるし、自動販売機だってあるだろう……。何よりも、誰か人間と会えるだろう……。

 光源まで距離があるのに、周囲が暗いと近くに浮き出してるような錯覚に囚われます。すぐそこにありそうなガソリンスタンドの看板が、歩いても歩いても近づいてこない。それでも一歩一歩進んでいくと、

 

 ぱっ <消灯

 

 宇佐美が

 消えたー!!!Σ( ̄□ ̄;

 

 すさまじい喪失感。ものすごい絶望感。真っ暗なガソリンスタンドに近づくと、「営業時間:〜午後9時半」の文字が。あああああ……せっかく人間に出会えると思ったのに……。もう人の気配がなくても、「住友化学」や「TOYOTA」の看板があるだけで嬉し

 

 ふっ <消灯

 

 TOYOTAも消えたー!!Σ( ̄□ ̄;

 

 あの時の感情は一生忘れない。全世界から見捨てられた気持ちになる。「あ、俺って要らない子だったんだ……」思わず膝を屈しそうになるも、ここで座ったら二度と起き上がれない気がして、歯を食いしばって前方へ。「住友化学」の看板は消えなかったよ……。危なく住友化学に惚れそうになったよ……。

 「住友化学」の看板の下、無人の駐車場で休憩。コンクリートの冷気がお尻をどんどん冷やしていきます。

 地図を確認。工業団地のページの、1/4も進んでいません。絶望的な気持ちで前を見ます。日中ならば地平線すら見えそうなほどの、まっすぐで平坦な道のはるか先に、なにやら青い光が。

 

 ……ん?

 なんだアレは?

 

 

その10へ続く。